荒川 恵梨香さん　#ソシオエステティシャン #医療法人社団山本記念会

自分自身が身体を壊して入院したことが大きな転機となりました。
入院していると、時間はたくさんありますし、自分のことだけでなく、周りの入院患者様やそのご家族、病院で働く医師、看護師、介護士など、さまざまな立場状況におかれている方々の様子が見てとれます。長く入院していれば肉体的にも精神的にも疲弊しますし、患者様の中には先が見えない不安や怖れ、やり場のない怒りを、病院スタッフにぶつけてしまう方もいらっしゃいます。そんな様子を垣間見て、感じること、考えることがいろいろありました。
そんな折、フランスからの医療特番の中で、病院で働く一人のソシオエステティシャンの姿を見る機会がありました。患者様はヘッドマッサージを受けながら怒りを表出しています。施術者は、患者様が発する暴言や態度に惑わされることなく、優しい一言とマッサージをし続けました。すると次第に患者様の怒りがおさまり、その場の雰囲気もやさしく和んでくるのです。医療の現場でエステティシャンとしてできることがあることを知り、大いに感銘を受け、これが私の理想とする姿。運命を感じ、私もソシオエステティシャンになりたいと強く思いました。

ソシオエステティックとは？

ソシオエステティックとは、人道的、福祉的視点から、精神的、肉体的、社会的な困難を抱えている人に対し、医療や福祉の知識に基づいて行う総合的なエステティックです。エステティックの施術により、人を癒やし、励まし、生活の質を向上させ、その人が本来の自分を取り戻すためのお手伝いをします。
エステティックの本場フランスでは、ソシオエステティックは1997年に国から技術教育資格として認可され、医療や福祉の現場で重要な役割を担う存在としてしっかり根付いています。
日本では、フランス※1CODESと※2日本エステティック協会との提携（2004年）により2007年から養成講座が始まりました。知識や技術はもちろん、実務経験値としても高いレベルが求められる難易度の高い資格ではあるものの、職業に対する認知度は低く、求人も少なく、実際にソシオエステティシャンとして仕事ができている人は多くはないのが現状です。
そんな中、私は幸いにもホリスティックな考えをお持ちの山本百合子理事長に出会えたことで夢が叶い、2012年の入社以来、医療チームの一員として患者様にソシオエステティックを提供できています。そのことに感謝しつつ、今後一層、患者様一人ひとりのパーソナルヒストリーに寄り添ったケアを心掛け、さらに周囲の理解を深めて、ソシオエステティックの認知度を上げていきたいと思っています。

※1 CODES:人道的・社会的エステティック選択講座
※2 日本のエステティシャンの職能団体（1972年設立）

医療の現場で、医療チームの一員として

入院病棟は、患者様にとって治療の場であり、生活の場です。
寝たきりで人と触れ合う時間が少なければ、他人だけでなく自分に対しても興味関心が薄れてしまいます。気力が失せ、リハビリをして社会復帰しようという意欲もなくなります。そうなると病院はただ時間をやり過ごすだけの場所になってしまいます。
ソシオエステティックは、患者様の気力を復活させるきっかけになります。施術内容は、患者様のお話をよく聴くこと、ハンドケアやフェイシャルマッサージ、化粧、ネイルケア、マニキュアなどで多岐に渡ります。人に触れられ、さらに患者様ご自身で肌に触れることで、自己を認識し、自己への関心が復活し、さらに鏡を見ることで行動の変化が見られます。他人と関わり、社会と関わるきっかけになります。
興味関心が薄れ、一日中ぼんやりとされている患者様にネイルアートをして差し上げたことがあります。すると何か変わったものが爪についていると思われたのでしょう。自分で手を上げて見ようとされたんです。それが生活の中でのリハビリになります。それなら隣の方にもと、隣にもネイルをして差し上げたら、驚いたことに、その患者様お2人でネイルの見せ合いっこをしていたそうです。
ネイルや化粧をキレイにしていると、スタッフが気づいて「キレイにしてもらったのね」などと声を掛けてもらえる。それにより自尊心を取り戻すこともあります。話のきっかけになるのです。ただし患者様のパーソナルヒストリーを考慮して施術を行なわないと、喜ばれるどころか怒らせてしまうこともあるので注意が必要。患者様のこれまでの人生の歩みを知ることがソシオエステティックの第一歩となります。
私の場合は時に歌うことで共に心を開き、肌で心に触れ、日本人にあったソシオエステティックを追求し、美容＋αのアプローチで患者様一人ひとりの生活の向上に寄与したいと考えています。
（2024年1月15日取材／文・斎藤久子／写真・足立百合）

Q.ソシオエステティシャンになるために取っておいた方がいい資格や技能はありますか？

日本ではエステティシャンは国家資格ではありませんが、信頼のおける民間団体の資格を持っていることが顧客の安心安全につながります。ソシオエステティシャンは厚生労働省のエステティック職業能力評価基準でもキャリアマップのマスターレベルに位置し、日本エステティック協会が認定する「CODES JAPON認定ソシオエステティシャン」の資格があります。また実際にソシオエステティシャンとして活躍されている方を見ると、エステティックの資格の他に、美容や理容、看護等の国家資格を持っている方もいます。
しかしこれらの資格以上に必要なのは、人間性や社会性、衛生観念、判断力、コミュニケーション力、どのような人生経験を積んできたか。人のためを思う心、ソシオエステティックに対する熱い気持ち、パッションが大切だと思っています。

ソシオエステティックの目的や効果を広く知ってもらうため、チラシを作って患者様やご家族に配布。季節ごとの音楽会や集団リハビリテーションなども企画し、専門性を活かしパーソナルヒストリーにそったケアを行っています。

医療法人社団 山本記念会 山本 百合子理事長

私の専門は皮膚科なのですが、皮膚科の治療では、感染等の問題があり、基本的には患者様の肌に、頭皮に、直接触ってはいけないとされています。でも私は触らないと診察ができない。目は錯覚を起こします。同じように赤くて同じように平らに見えても、直接触ってみるとデコボコしていたり、ザラザラだったり…。目で見るものと、手で触って感触で感じるものとは違うことがあるのです。
荒川さんにお願いしているソシオエステティックは、患者様の肌に、直接手で触れて行う技術です。採用面接でも、面接に来ていただいた方々に実際に施術をしていただきましたが、技術者により気持ち良さが違う。エステティシャンの手の感触が非常に大切で、手から伝わるものは大きい。エステティシャンの気持ち、心が、その手をとおして受けている者の肌に、心に伝わり、癒やしとなり、患者様の気力を復活させ、その行動に変化をもたらします。
私自身も若い頃から美容やおしゃれに興味があり、美容の力を感じていました。仕事に、人生に、迷い悩んだ30才の頃、美容家の小林照子先生のハッピーメイクを習いにいったことがあります。そこでは一緒に講座を受けている周りの仲間が、メイクによって自分の個性に気づき、自信を持ち、自分を開放してどんどんキレイに変化していく様子を目の当たりにしました。
表面に現れた症状を緩和させるだけでは本当の意味で病気を治すことにはならない、病気が表面化する原因を取り除き、心も身体も元気になって初めて、病気が治るということだと考えています。
対症療法により、保健医療の中である程度までは元気にすることができても、どうしてもはみ出てしまう人がいる、限界があります。そのはみ出てしまった人たちにも、自由診療という形にはなりますが手を尽くしたい。その方法の一つが美容であり、荒川さんにお願いしているソシオエステティックになります。
山本記念会では、美容だけでなく、音楽、絵画造形、歌唱、運動など、薬を処方するのではなく、さまざまな体験型の治療法を取り入れることで、患者様一人ひとりが元気になれるような取り組みを行っています。病気にならないための考え方や生き方を一人ひとりが持つこと。ホリスティックな考え方を皆が持つようになると、世の中がもっと楽しくなると思います。
究極の理想形は病院が不要になること。病院がなくても、医者がいなくても大丈夫な世の中になることだと思っています。

荒川 恵梨香（あらかわ えりか）

医療法人社団山本記念会ソシオエステティシャン。静岡県出身。藤原歌劇団、新国立劇場公演等オペラ歌手として活動。2001年美容界へと転身し、2011年まで国際文化理容美容専門学校にて教鞭をとる。2007年から2010年にかけCIDESCO国際資格、認定TEA、CODES JAPON認定ソシオエステティック資格を取得。2012年より医療法人社団山本記念会にソシオエステティシャンとして勤務。2017年パスツール研究所（仏）にて病棟でのソシオエステティック活動を日本代表として発表。AJESTE認定講師。AEAJアロマセラピスト・インストラクター。理容師。美容師。保育士。日本オペラ協会正会員。

医療法人社団山本記念会
すみれが丘ひだまりクリニック

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すみれが丘ひだまりクリニックホームページ
「人を愛し、人を信じる」という創始者の精神の具現化のために設立され、その精神に共鳴する人々によって運営される。病院に入院、通院する患者様の必要に応じて、訪問看護、在宅医療、通所リハビリテーョン開始など、目的に合わせた施設とサービスの種類を増やし、現在16の事業所で患者様一人ひとりに寄り添った医療や関連するケアを提供している。