福田 拓也さん　#オーナー #ヘアスタイリスト

都会に強烈な憧れを抱いた少年は、渋谷に出て国際文化の渋谷校理容科に入学すると、2年間、2時間をかけて宇都宮の自宅から通った。それから16年、今は実家のほど近くに『BARBER kaie』をオープンさせ、宇都宮の地で働いている。
最初に就職したサロンでは2年働いた。入社早々の自分を、オーナーはお客さんのカットに指名した。思えばその時の“ぶっつけ本番”が、後の“現場第一”を形づけたのかもしれない。
次に転職したサロンは、後に現在の“バーバーブーム”の先鞭をつけるサロンだった。
7年間、充実の時を過ごしていたが2015年に転機が訪れた。この年の12月、月267人の指名を受け、自分史上最高の“売上げ"を計上した。更なる“売上げ"を目指そうとするも、サロンのキャパシティーからしてその数が限界だということは明白だった。
歯車が狂い始めた。ほどなくサロンの海外出店が発表された。
海外店舗に人員が割かれると、キャリア的にも空いたマネージャーのポストに自分が抜擢される可能性は高い。自分はずっとサロンに立ち続けたかった。
鬱々とした思いで2016年を過ごした。そんな思いで仕事を続けることは仲間への裏切りでしかなかった。限界だった。2017年3月、10年勤めたサロンを退社した。
自分のサロンを持つ他はなかった。でも、お世話になったサロンとの競合はどうしても避けたかった。東京以外でサロンを開くとなると、幼い頃からの友人が暮らす故郷以外には考えられなかった。宇都宮には“土地"というよりも“人"との繋がりがあった。
2017年5月11日、実家のほど近くに『BARBER kaie』をオープンさせた。資金は父親と貸借契約を結んで借りた。退社したサロンのオーナーに「信じ続ければ、願いは叶うよ」と背中を押された。
何もかもが“ゼロ”からのスタートだった。お客さんが誰も来ない日もあったし、1～2人の日が2ヶ月続いた。身体が鈍（なま）った。不安だった。将来への不安を打ち消すために、細かなところを徹底的に掃除したり、兎に角やれることやって身体を動かした。
友人たちが来店してくれて、その“クチコミ”もあってか徐々に客足も増えてくると、鈍った身体が悲鳴をあげた。久々に味わう心地良い疲れだった。
2020年の12月には180人のご来店があった。もう体力は戻った。サロンオープン以来、一人で切り盛りしてきた。今年の5月でオープンから4度目の春を迎える。そろそろ来年あたりにはスタッフ募集をしてもいい頃かもしれない。

接客のモットー

『毎回小さなノック』とのことで、「お客さんには『毎回小さなノック』をすることを心掛けています。特に男性は心を開くのが下手な方が多いので、心からリラックスしていただくためにも、こちらから少しずつ話しかけて（小さなノックをして）コミュニケーションを図っています。話さない人には話しかけない…というのは、少し違うんじゃないかと思うんですよね」と福田さん。

座右の銘

『両腕に技術の貯金』。この言葉は、本学在籍時の校長、武市昌子先生の言葉で、福田さんは在学中にこの言葉を聞いて感銘を受けたという。

福田 拓也（ふくだ たくや）

BARBER kaieオーナー。2005年3月、渋谷校理容科卒業。都内2店舗を経て、2017年5月、生まれ故郷の栃木県宇都宮市にサロンをオープン。以来、一人でサロンを切り盛りしている。

BARBER kaie（バーバー カイエ）

BARBER kaieホームページ
栃木県宇都宮市雀宮4-26-9-101
TEL：028-348-0589
インスタ→＠barberkaie
kaie（カイエ）の名は、三宅デザイン事務所出身で、現在さまざまな企業のブランディングを手掛ける『SIMONE』を主宰するデザイナーのムラカミカイエさんの名からいただいたものだそう。ムラカミさんは前サロン在籍時に担当していたお客さまで、福田さんが尊敬する人物。店名を考える際、誰にでも読めて、それでいて意味が特定されないものを探していたのだそうだ。