ジタンのサーカス

パリ１８区クリシー広場の近くの空き地にジタンのサーカスがテントを貼っているよ。という噂につれられて行ってみました。すると、そこには昔からの伝統を守り続けてきたジタンのサーカスのテントがありました。（ジタンはフランス語でいうジプシー）

その団長のアレキサンダーBはこの上なく詩的なジプシー／ジタンのスタイルにこだわり、それを表現し続けていました。

ロマネスク・サーカス

ロマネスク・サーカスのアクロバット／ピエロ／音楽は、中央ヨーロッパの過酷な田舎の中で踊ながら、夢を見るために出来上がったものです。それは、彼等と共にその何かを祝う為にわざわざ足を止めてくれた旅人達との気前の良い贅沢な時間です。

「ただ時の外に出た様にパリの真ん中で一緒に時を過ごしましょう。」そんな言葉と共に、テントの前に貼られたポスターは昔から空き地にテントを張り、同じ様に旅を続けていた何代も前の一座の写真。不思議な時の彼方へ誘われるような期待が広がります。

妙にワクワクしながらテントをくぐると、こじんまりしたテント内はそれでもしっかりとしたサーカス小屋で裏方では馬が草を食べてるし、コントラバスやバイオリンが音合わせをしています。こじんまりしたテントの中は開演前から人でもう一杯でした。

オープニングは一座みんな団長、音楽を先頭に全員で唄いながらテントを一周します。このところパリでは"ジタン=ジプシー"という言葉は、随分悪いイメージがありますが、音楽は生演奏、唄もジタンならではの貫祿あるしゃがれ声の女性が歌い上げ、彼等の音楽からは音楽や芸を生きてゆく糧にして旅から旅へと流れていく本来のジタンのソウル：魂の様なものが感じられ思わず胸がいっぱいになってしましました。（写真：オープニングかミュージシャン）

芸術的要素
ヨーロッパの絵本

出し物は、特に危険なアクロバットに手に汗にぎるわけでもなく、ライオンが火の輪をくぐるのでも、象のピラミッド崩しを見れるはずもないのですが、舞台は観客を掴んで離しませんでした。その魅力って何でしょう。

各自が各々の技を追求し、難度の高い技はなくても、むしろそれが独創的にさえ思えます。自己表現に重きを置いて身体とシルエットがとても美しく見えます。アクロバット／ジャグリング（手技）など数先年の歴史を持つ個別の技もその中では自己表現の道具となり、又、自分の内なるイメージの表現の為の新たなアートとして生れ変わろうとしている様に思えます。

まるで彼等は、昔読んだヨーロッパの絵本から抜け出して来たようでした。それぞれの役者が個性的で、とても奇麗なのに、少し怖い様な、怪しい雰囲気を持つ美しさで、まるで、この世の人とは思えません。どこから来たのだろう？...言葉のないその彼等の世界がより多くを語ってくれてる気がしました。

ここ近年、日本に限らずサーカスの衰退が語られてきました。実際、私たちの中でもサーカスが若者や大人が楽しむ物からはかけ離れて、芸術的要素も無くなってきている気がします。パリでは昨年辺りより今までのサーカスのイメージが変わってきています。

テアトルがその舞台をサーカス小屋に移してきた。そんな風潮が感じられます。それは、ダンスや舞踏であったり、音楽の要素の強いライブスペクタクルだったり、アクロバットでも寸劇っぽかったり。

日本も今年辺り大人の楽しめるアバンギャルドなサーカス小屋が出てくる様子。そんな中、今回のサーカスは昔の香りを色濃く残すものでした。昔からの物なのに、とても新鮮で心ひかれたのが印象的でした。

国際文化学園 企画室(PARIS France) 小川　真理