1000年以上も昔、清少納言は身のまわりのことから自然、風俗、しきたりなどなど、多岐にわたる事柄に寄せた随筆（エッセイ）を著した。

　後世になり、同時代に活躍した紫式部が「もののあはれ」、清少納言が「をかし」を表現した作家だと評されるようになった。

　「あはれ」は、ものの儚さや無常を言葉に置き換えたもので、「をかし」は、ものの趣（おもむき）や味わいを言葉にしたものと云われる。考えてみれば「あはれ」も「をかし」も、現代人に脈々と受け継がれる心情だと気づかされ、人の心は1000年経っても変わらないものだとニンマリさせられる。

　清少納言は、山を見ても花を見ても服（装束）を見ても、何でもかんでも「いとをかし」と連発し、その語彙変換のパターンは現代にも受け継がれた。なかでも若い女性は、山を見ても花を見ても服を見ても、そのパターンに従ってか何でもかんでも「かわいい」と連発し、1000年経って「をかし」は「かわいい」に、「いとをかし」は「超かわいい」に変換された。

　そして、心情を的確に表現できるコトバが見つかると、今度はそのコトバに引っ張られるからか、心情も「かわいい」を求めて日本はカワイイもので溢れ返った。原宿の竹下通りはカワイイの巣窟になった。

　すると、そのカワイイを日本の観光資源、アピールポイントにして行こうとの機運が高まり、そのなかで誕生したのが、日本メイクアップ界の重鎮・トニー・タナカさん率いる『日本メイクアップ連盟』が主催する『全国理美容学校「kawaii」選手権大会』（通称『kawaii杯』。途中、名称変更あり）だった。

　あれから20年。同コンテストの成績上位者は『東京kawaii大使』として、特にアジア圏の国々を表敬訪問し、ジャパニーズかわいいをアピールしてきた。本学（国際文化理容美容専門学校 渋谷校/国分寺校）も初回大会よりこのコンテストに参加し、手前味噌ながら全19大会中17回もの優勝を飾ってきた。遂には、この大会で優勝したいがために本学に入学する学生も現れるほどになった。

　そんな『kawaii杯』も、このところのコロナ禍の影響で、ここ3年ほどは一堂に会しての競技会を避け、オンラインでの大会を余儀なくされてきた。歓喜の表彰式もなくなり、大会委員長のトニー・タナカさんが上位入賞者当該校を訪問しての賞状授与に留まっているが、この程、2022年度の『kawaii杯』で好成績を収め、『東京kawaii大使』に任命された「かわいい」部門・文部科学大臣賞受賞の大井美優さん、「かわいいウエディング」部門・文部科学大臣賞受賞の中山 遥さん、それに「かわいい」部門・日本メイクアップ連盟理事長賞受賞の藤岡莉子さんらに贈る賞状および優勝カップ授与がトニー・タナカさん来校のもと行われた。受賞作品は本学ホームページ『コンテスト入賞歴』をご覧くださいまし。

　時に、毎年入賞する作品を見て思うのだけれど、これらのkawaii作品、単にかわいいだけではなく、そこはかとなく「もののあはれ」を感じる作品もあり、1000年経った今、図らずも平安に活躍した二大女流作家の表現信条がジャパニーズカワイイの中に融合しているようにも思え、これがレキシの重みかと平伏すワタクシであります。

　そして今、「カワイイ」の一部は、巷にあったもろもろの形容詞とともに「ヤバい」に集約されようとしています。