理容師と美容師ともにヘアスタイリストと総称されることが一般的になり、理容美容業界ともに見習い期間とみなされるアシスタントに対し、一人前の技術者をスタイリストと称します。ここでは、特に美容師と比較しながら理容師(barber)のスタイリストとアシスタントについて考えてみましょう。
理髪店・床屋・散髪屋・理容室・理容所
最近、再び理髪の用語が注目されていますが、明治時代までは広く「理髪」が用いられ、昭和初頭から近代美容術も含めた「理容」の用語が使われはじめたと言われています*1。また一説によると関東地方では「床屋」、関西地方では「散髪屋」と呼ばれることが多かったようです*2。法的には1951(昭和26)年に「理容師美容師法」に改正・改称され、この時に「理髪師」は「理容師」となり、さらに1957(昭和32)年に、理容師法から美容師法が分離独立し、「美容師法」が成立しました*3。
理容業界の現状は?
厚生労働省によると、理容師数(従業理容師数)は、2022(令和4)年3月末時点で、20万4,883人となり前年より1,864人減少しました。その年に新たに理容師免許を取得した者は1,472人であり、他方、同年中に美容師免許を取得した者は、約12倍の17,876人です。
また理容室(理容所)数は、2022(令和4)年3月末時点で、11万2,468施設であり前年度比で1.7%減少しており、昭和61年をピークに、平成8年、9年度に若干増加したものの、平成10年度以降再び減少傾向が続いていることが報告されています*4。
理容室は、美容室に比べて個人経営の個人事業主の割合が多く、従業員4人以下が約8割に上り、経営者の年齢も高く高齢化が進んでいることも指摘されています*5。
また日本の理容師の技術は、世界理美容技術選手権大会という技術世界一を競うヘアスタイリングのオリンピックとも言える大会で、日本の理容代表チームは、1992年から6大会連続でメダルを獲得し続けるという快挙を成し遂げています*6。
理容師のスタイリストとアシスタントの仕事内容とは?
それでは、理容師の主な仕事内容をサロンワークから接客、施術、営業という3つの側面から整理してみましょう。
接客面 | 清掃、ご案内、電話応対(予約管理)、会計など |
施術面 | シェービング、カット、シャンプー(ヘッドスパ)、カラーリング(ホイルワーク)、パーマネントウェーブ、スタイリング、マッサージ、整髪(セット)、ヘルプ業務全般など |
営業面 | SNSの発信(チラシ配り)・店販など |
大型店の理容室であれば、スタイリスまでの教育カリキュラムも整っている場合が多く、一定期間は、アシスタントのヘルプ業務をこなしながら技術を高め、一人前のスタイリストを目指します。他方、個人経営の小型店では、経営者に直接指導を受けられ、加えて入客できる機会も多い傾向にあり、スタイリストデビューも早いかも知れませんし、その分やりがいもダイレクトに感じられるはずです。特に英語のbarberには、ひげを剃る人という意味もあり、国家試験の実技課題として審査されるシェービングの技術は、理容師の最大の武器とも言えます。一般的には「手に職系」の職人的な業界慣行からかつては、弟子と師匠という側面も強い体育会系の職人世界であるともいわれていました。
理容専門学校学卒の新規学卒者の多くは、大都市圏を中心に、店舗数を展開し、教育システムや福利厚生が充実している企業(会社組織型)の一定規模以上のブランド力のある大型店へ就職していく傾向にあるようです。
美容師と比べて
近年は、男性も美容室に行くことが当たり前となりましたが、一般的には美容室と比べ、理容室では特定のスタイリストを指名せず、担当者に拘らないお客様が多いようです。これはサロンの経営戦略とも関わりますが、個人のスタイリストが指名される美容師に対し、お店に対する固定客が多いのも理容室の特徴といえるかも知れません。
また美容師とのアシスタントと比べ、前述の通り提供する具体的な施術内容の違いもあります。では次に、理容師のスタイリストとアシスタントについて具体的にみてみましょう。
理容師のスタイリストとアシスタントの1日は?
全てのという訳ではありませんが大規模店では、朝礼が営業前に、営業後には終礼が行われます。経営理念の共有から一日の流れ、目標や反省点の確認などが行われます。お店がオープンすれば、サロンワークです。スタイリストは、集客動員が見込める土日祝日には、お昼ご飯も交代で、取れるスタッフからという状態になるため食生活も乱れがちになり健康管理も必須です。そして清掃だけでなく公衆衛生の向上が求められる職種から衛生管理も大切です。
一般的な美容師のアシスタントに比べると、提供する技術的な相違も要因となり理容師のアシスタント期間は、短くなる場合があると言えます。
理容師のキャリアは?
一般的な理容師のキャリアは、大きく次の3つのステップを経るイメージで捉えることができると思われます。まずアシスタントから一人前のスタイリストになるまでのキャリアが2~5年程度。次に後輩の育成を担うようなスタイリストからマネージャーまでのキャリアが7~10年程度、最後がマネージャーから、サロンをマネジメントする立場となる店長(マネージャー)やチーフとなり独立も視野に、どのような形でキャリアを築くのかを考える段階になります。
理容師のスタートラインであるアシスタントの期間は、1年~3年程度が一般的で、平均2年程度でスタイリストデビューといわれます。近年は、短期間での即戦力化を図るサロンも増えており、個人の技術的な能力差とともに、人材育成および経営方針の違いなどもスタイリストデビューまでの相違の背景にあるといえるでしょう。技術の世界で共通して求められるのは、古くから「見て盗む」とされる「観察力」を研ぎ澄ませ、練習を重ね、一人前のスタイリストに必要となる技術を修得していきます。
サロン独自に設定される技術チェックと呼ばれる実技試験をクリアしていくことが、理容師のアシスタントの最大のミッションとなります。一人前のスタイリストとして経験を積み、将来的にはサロンの責任者になる、または独立して自分のお店を持った場合を想定し、必須ではありませんが特に管理理容師の資格は、ぜひとも取得しておきたいものです。
理容師のアシスタントとスタイリストの給与は?
美容師・理容師の給与は、アシスタントであれば固定給となり、スタイリストになると、売上に応じた歩合給が加えられ給与は決まりことが多いようです。厚生労働省の賃金に関する統計などによると、理容師・美容師の平均年収は、約275~300万円程度に留まっており、低い平均年収が課題とされていますが、サロン規模や集客動員数などの要因によって決まるため一概には言えません。
基本的に理容室ではシェービングからシャンプー、カットから仕上げにいたるまで、一人のお客様を一人の技術者が担当する形が一般的です。美容室でみられるような、「カリスマ美容師」をアシスタントがトップスタイリストと分担するシステムがとられないことも背景といえるでしょう。
美容師より理容師の方が「息が長い」!
一般的には、美容師より理容師は職種の定着率が高いため離職率も低く、プレイヤー(技術者)としても長く働けるといわれることが多いようです。美容師と理容師ともに「手に職系」であり、高いスキルが身につくと独立したり、新たなフィールドを求めて転職したりする傾向にある労働流動性の高い業種です。前述の通り、美容師と比べて圧倒的に新規の理容師免許取得者も少ないという人材不足という要因とともに、一般論として理容師の方が「息が長く仕事が出来る」といわれる背景には、ファッションとトレンドに加え、パーマやカラーなどの施術に関する技術的な進歩も激しい美容業界に比べ、理容業界の主な顧客層である男性のヘアスタイルのニーズに一定の普遍性が求められることも指摘できるでしょう。
低くなる理容と美容の垣根
ヘアサロンが集積している大都市圏では、理容室と美容院の垣根が低くなっています。一見すれば、美容室なのか理容室なのかは、判別できないタイプのサロンも見られるようになり多様化しています。例えば、クイックカット(カットのみを提供する専門店で、理容師が働くお店は理容所登録、美容師が働くお店は美容所登録されているケースが多い)も低価格により顧客のニーズの獲得に成功しています。
美容室の様に見えるユニセックス(女性もターゲットにした理容所登録のヘアサロン)やメンズグルーミングサロン(男性に対するエステやヘッドスパ、ネイルケアからアイブロー、フェイシャルなどをトータルで提供するメンズ向けのトータルビューティサロン)には、美容所登録のケースもあるのです。長年通い続けているお客様からすると、ヘアサロンの雰囲気によっては、理容師と美容師という違いを意識しないかも知れません。
バーバースタイルの台頭
特に近年では、バーバースタイルが注目されています。2019年に日本中に感動と勇気を与えてくれたラグビー日本代表チームの選手たちが通う理容室が一躍話題となったことはご記憶の方もおられるでしょう。サイドを短く刈り上げ前髪を上げるクラシカルな男らしいヘアスタイルも人気です。
前述の様に理容と美容の垣根が低くなることで、逆にクラシカルな理髪の世界観がクローズアップされることで、男の魅力を磨くというメンズカットやエッジの効いたバーバースタイルが注目されているのかも知れません。
伝統的な理容室からファッションやライフスタイルも提案し、男性に対してもトータルビューティーを提供するメンズグルーミングサロン、そしてバーバースタイルや高級なラグジュアリーな価値を提供し、一流のビジネスマンが通う高級バーバーなども高いブランド力を誇るヘアサロンまで、理容の魅力は広がっています。理容師として確かな技術と価値を提供し、さらに世界的な国際大会まで高みを目指して活躍していってください。
出典・参考文献
大岳美帆・木村由香里著『美容師・理容師になるには』(2018)ぺりかん社
石田素弓著・大岳美保『美容師・理容師になるには』(2003)ぺりかん社
学研まんがでよくわかるシリーズ 仕事のひみつ編①(2006)『理容のひみつ』
厚生労働省HP
脚注
*1 日本理容美容教育センター『文化論』(2018)P.18
*2 学研まんがでよくわかるシリーズ 仕事のひみつ編①(2006)『理容のひみつ』P.5
*3 社団法人理容美容教育センター(2004)『日本理容美容教育センター50年史』P.46
*4 厚生労働省「令和4年度衛生行政報告の概況」P.5
*5 厚生労働省「理容業の振興指針(令和6年厚生労働省告示第96号)」
*6 全国理容生活衛生同業組合連合会
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